スリランカのアーユルヴェーダ研修1



    
渡 邉  敏 子

(ヨーガ・アビヤンガ指導@京都)



セラシンハ教授・97.11.16・アーユルヴェーダ研究会総会

     は  じ  め  に

 私は、今年の3月から、約3ヶ月間スリランカでコロンボ医科大学のセラシンハ教授
のもとでアーユルヴェーダを勉強しました。
 マッサージのテクニシャンを養成するためのコースでしたが、アーユルヴェーダの
歴史や背景となっている哲学、病理、診断、治療の基礎概念を学ぶこともできました。
 しかし、それらは今すぐにはとても応用できそうになく、知れば知るほど知らないこ
との多さに気付く結果となりました。診断をし治療計画を立てるのは、実際には医師
の役割で、テクニシャンはそれに忠実に従うだけですから、必要はなかったかも知れ
ませんが、勉強できて本当に良かったと思っています。

 そのほか、薬草を摘んで標本にしたり、油剤や煎じ薬を実際に作ったりしました。
それも、テクニシャンには直接関係のない分野なのですが、そのときに大変苦労した
ので油剤を大切に扱うようになりました。
 ダンヴァンタリ神やお釈迦様の前で、油剤作りにたずさわるすべての人や道具を炎
で清め、お祈りを唱え、縁起の良い時間を選んで心を込めて作ったそのときの油剤は、
今では私のお守りになっています。

 テクニシャンとしては、骨、関節、筋肉について、ひとつひとつの形と機能を学ん
だ上で、スネーハ・カルマ(油療法)や、スウエーダ・カルマ (汗をかく療法)の技術
を訓練しました。
 そのうちのアビヤンガ (油を塗る方法)は、現在日本でも広まりつつあり、私も帰国
後希望してくださる人にする機会がありました。
 アビヤンガの様々な効果や油剤の作用については、専門家やお医者様の研究が進ん
でいます。そこで、数年ヨーガと関わってきた私が、今アビヤンガについて感じてい
ることを、経験もまじえてまとめてみたいと思います。

 スリランカでパーリタ・セーラシンハ博士より習ったアビヤンガですが、簡単にそ
の方法を説明致します。
 まず、する人と受ける人が向かい合って、お互いの眉間を見つめあいながら、何度
かゆっくりと呼吸をします。そのとき、受ける人の身体の歪み、姿勢、表情、身体か
ら受ける印象などをチェックしておきます。
 次に受ける人に座ってもらい、ブラフマ・ランドラと呼ばれる頭の上の場所に、少
しの油剤をのせて、ガーター(マントラに似たもの)を唱えます。
 そして、決められた順番と方向に従って、温めた油剤を塗りながら、全身をさすり
ます。途中で関節をゆっくりと動かしたり、マルマ(急所)の指圧もおこないます。
 終わったあと、少し休んでもらい、次に指示されたスウエーダ・カルマに移ります。

 ヨーガでは、人間は、魂に5つの鞘状の体(食物鞘・生気鞘・意思鞘・理智鞘・歓
喜鞘)をまとっていると説明しています。アーユルヴェーダに、この考え方はないの
ですが、私が感じたことを分類するのに使わせていただきました。


宿舎で!ちょっとピンぼけの私です(^.^)


A.食物鞘への働きかけ (1) 常に空気や風に触れ乾燥している皮膚に温かい油剤を塗ることによって、潤い や油分を与えることができます。皮膚の上に油の分子が7層できる位使うのですが、 そのようにたっぷり塗るだけで保護されたような気持ちになり、すぐ力が抜けて、う とうとする方が多いです。 (2) 筋肉の緊張がとけるのを探偵のように注意深く観察します。そのためには、手 のひらに意識を集中し、強すぎず弱すぎない圧力で、ひとつひとつの筋肉をイメージ しながら、その緊張がとれていくように手を動かします。  表面にある筋肉は、比較的ほぐれやすく、また、ほぐれたのが分かりやすいのです が、あとで述べますが、奥深くにある筋肉は精神状態や感情と結びついているように 思います。 (3) 関節に油がいきわたるのを想像しながら、関節を非常にゆっくりと動かします。 まるで、機械に油をさすような感じがします。  ヨーガの先生や、クラシックバレエをしている方が『アビヤンガを受けると、その あと2〜3日身体がとても柔らかく感じる』といわれるのですが、何か関係があるの かも知れません。筋肉も関節もとてもよく機能するようです。  それにじっと横になっている状態ですから、軽く関節を動かしてもらうことにより 、筋肉の緊張がとれやすくなることにつながるように思います。 (4) 『からだじゅう管だらけ』という説明がスシュルタ・サンヒターにあります。 消化管や毛細血管、リンパ管、細胞と細胞の隙間さえも管と考えるならば、まさしく 身体じゅう管だらけなのですが、その中を流れる液体がよどむことなくめぐり、マラ (老廃物)が排泄されることが求められます。  そのために手のひら全体でその流れを手伝うようなイメージを描く必要もあります。   いつも私は油がしっかり浸透した頃、身体じゅうが川のように流れているイメージ をします。 B.生気鞘への働きかけ (1) 気(プラーナ)のレベルでの流れも良くなるようにイメージします。ですから、 アビヤンガで手を動かす方向は、エネルギーの流れる方向と一致しています。  手首〜手の指〜足首〜足の指をまわすところで、眠ってしまう人がとても多いので すがたくさんの経絡が関係していて全身の気のめぐりがよくなるせいかも知れません。  気のめぐりといえば、チャクラを想像する方もあると思いますが、チャクラの場所 と思われるあたりには、マルマ(急所)があります。マルマは身体のあちこちに存在 しますが、先生はアビヤンガで使用できるマルマをスイッチにたとえて説明してくだ さいました。  『電気のスイッチを入れることによって、この部屋の電球が全部灯るように、ひと つのマルマを刺激することによって、関連した筋肉の気の流れがよくなります。』  中国や日本、スリランカにも、ハリ治療があります。  あるポイントを刺激して、関連したエネルギーの流れを得るマルマ・テラピー (急所療法)は、なじみやすい方法だと感じました。  アビヤンガでは指圧をしたり、押しながら円をかくように動かしたりします。 (2) 先生は、こんなことも言われました。『人間は、要素(原子)からできていて、 それは常に振動しています。する人は、受ける人のヴァイブレーションを受けるし、 する人のヴァイブレーションは、受ける人に影響を与えます。  する前には、お互いに呼吸を合わせ、気も交流させておくことが大切です。  そうすれば、受ける人のエネルギーの足りないところに気付くことができます。  よく見きわめて足りないところは、与えてあげてください。  そしてその人からは、何にももらわない、そういうことが非常に大切です。』  これは、最近日本でもよく聞くようになった外気功に似ているように思います。  なぜなら、アビヤンガをしている途中に、ときどき手のひらをこすりあわせて、気 を高めるように指導を受けたからです。  もし、そんなことができたら、人間が他の人にしてあげられる最高のお手当だと思 います。是非、そんなことができるようになりたいです。


宿舎の台所風景。スパイシーなカリー料理が多い。


C.意思鞘への働きかけ (1) する人の感情が幸せであることと、動機が純粋(つまりお金や名誉のためでは なく、健康にしてあげたいという動機)であり、大きな愛情をもってすることを、先 生はいつも強調されました。  人は、言葉や態度のちょっとしたことから、「大切にされているのか、そうでない のか、無意識に感じとります。たとえ言葉や態度に出さなくても、その人がかもし出 す雰囲気を敏感に読みとってしまうでしょう。そしてすぐに自分が心を開いてもよい 相手なのかどうか判断するのです。  とくに、初めてアビヤンガに来られる人は、不安や緊張を持っておられるので、安 心して気楽にしてもらうことが不可欠です。  受ける人に通じようと通じまいと、幸せと愛情をもって取り組むことはとても大切 だと思います。」  時々そんな愛情が通じたのか、と思うことがあります。手の指、足の指を扱うとき 、「私はこれほど自分の身体を大切にしてきたかしら」という人があるのです。テク ニシャンに身体のすみずみを丁寧に扱われることによって「ああ私の身体は大切なも のだったんだ!」と感じたとき、その人は自分自身で自分の身体を癒していることに なるでしょう。


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